父親が親権を取ることはできる?離婚を考えるときに親権について知っておくべきこと

離婚をするときには親権者を決めることが必須!どのような場合には父親が親権者になっているか?

そもそも親権って何? 

親権の中身とは

「親権」というのは法律上も使用されている用語ですが、実は法律上はっきりと親権とは何か、と書かれた条文はありません。ただ、民法の規定上、親権者が有する権利や義務として、「子の利益のために子の監護及び教育をすること」、「子の居所を指定すること」、「監護及び教育に必要な範囲内で懲戒すること」、「子が職業を営むにあたり、その許可をすること」、「子の財産の管理をすること」という表現があるため、このようなものが親権であると考えられています。

子の親である夫婦が離婚する場合は、父母の一方を親権者と定めなければならない

父母が離婚をするときは、協議・調停離婚の場合はその父母の協議により、裁判離婚の場合は裁判所により、親権者を父母のいずれかに定めることになっています。

諸外国の中には、離婚後も単独親権ではなく、共同親権を認めている国もありますし、日本でも共同親権について議論がされているところではありますが、現行法上は離婚後の親権者は父母のいずれかだけ、ということになります。

日本におけるこれまでの親権者の定め

司法統計によれば、離婚をするにあたり家庭裁判所で調停等により2020年度(令和2年度)に「親権者」を母親とした割合は9割以上であったそうです。
父親ではなく母親が圧倒的に親権者になっているのはなぜなのか、そもそも親権を取るためにはどのような点が重要なのかということを解説します。

どのように親権者を定めるか

親権者を父母のどちらにすべきか争いがあるときは

協議離婚でも調停離婚でも裁判離婚でも、夫婦間で親権者をどちらにするか合意ができるときは良いのですが、父母のいずれも親権を求める場合は、どのように決められるのでしょうか。

親権者に争いがある場合、協議離婚でも調停離婚でも、合意ができなければ裁判にて離婚そのものと親権者の判断をしてもらうほかありません。
究極的には裁判所の判断ということになりますから、裁判所ではどのような要素を基に親権者を定めているのか、というところが問題となります。

親権者を決めるにあたり、重要な要素

裁判所で親権を決める場合、大切な要素と考えられるのは、

①母性優先の基準
②継続性の基準
③子の意思尊重
④きょうだい不分離
⑤面会交流の許容
⑥違法な監護の開始
のほか、
⑦その他(経済的能力など)

といわれています。

このうち、①だけ見ると、男性はそれだけで不利なようにも思われますが、実際の紛争事例を見ると、必ずしも母親であるというだけで親権がとれる時代は終わっていると感じます。
この要素が着目されていたのは、昭和や平成の初期には、専業主婦などが多く、必然的に母親が子の監護養育の中心的な役割を担っていたから、ということが考えられます。そのような時代にあっては、確かに親権の争いにおいて母親が圧倒的に有利であったといえるかもしれません。

しかし、近年では男性(父親)も育休をとったり、積極的に子育てを担うという方もおり、家庭内での固定的な役割分担として「子どもは母親が面倒を見るもの」という時代から大きく変化しています。

そもそも、上記①~⑦のような要素を踏まえて親権者を決めるのは、「子の福祉のため」ということですから、幼い子どもであっても、安定して監護・養育できる環境を用意できることが最重要ということになります。

②の「継続性の基準」というのも、これまで子が育った環境が問題のないものであれば、そこで引き続き生活できるということは子どもの心身の安定という意味で大切といえます。また、③の「子の意思尊重」というのも、ある程度自分の状況を客観的に理解し、自分自身の意思を示せる年齢の子であれば、その子にとってより望ましいのが父母のどちらの親権の下であるのかということか示せるであろうという観点からのことと考えられます。

そこで、一概にいうことは難しい部分もありますが、数ある要素の中でも、特に気を付けるべき要素としては、②「継続性の基準」と③「子の意思尊重」ではないかと思われます。

これに対して、⑦のその他、なかでも「経済的能力」については、これだけで有利不利が決まるということはほとんどありません。というのも、経済格差のある父母であったとしても、離婚後の養育費が子どもに払われるはずなので、親権者が経済的能力に欠けたとしても、子どもが困窮するということはないはずと考えられるからです。

そうすると、父親が親権を取るためには、これまでどれだけ主体者となって子どもを監護養育してきたかという要素をアピールできるか、そして父親を親権者とすることに子どもも賛同する状況にあるか、というところがポイントということになります。

①から⑦の要素として、父母に大きな優劣がない場合はどうなるか

先ほども述べたように、近年は必ずしも母親だけが子どもの面倒を見ているということはなく、父母いずれも同じくらい子どもの面倒をしてきた、というケースも多いと思われます。
そのような場合は、総合的に見て、①~⑦の要素のどれをとっても、特に父母に甲乙つけがたいという場合もあるでしょう。
そうすると、裁判所ではどのように考えるかということでいえば、「現状子どもがどちらと生活しているか」ということも無視できない、ということになってきます。

最近では父母のいずれかが一方的に別居を始めてしまい、子どもを連れて行ってしまったというケースも問題になっていますが、元々監護養育を中心的にやっていなかったという側が子を連れて別居を始めてしまったという場合(この場合、子と同居している状態の親を「同居親」、子と別に暮らしている親を「別居親」などと呼びます。)であれば、別居親から同居親に対して「子の監護者指定」及び「子の引渡し」を求めて家庭裁判所に調停を申し立てるということも検討すべきでしょう。

最後に

子どもの親権というのは、一度決めてしまうとそれを後で変更するということは、手続としてはあるものの(子の親権者変更)、実際にはよほどの事情がなければ難しいものです。

「これまで自分が中心的に子どもを監護養育してきた」、「子どもは母親よりも父親の下で生活していた方が安定した暮らしをすることができる」といった事情があるのであれば、安易に「母親が有利」と諦めて親権を譲ってしまうなどということはせずに、場合によっては家庭裁判所での手続を経て、「本当に子どもにとって良い環境はどちらか」ということを決めるのが良いと思われます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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