婚姻期間中に厚生年金に加入していた期間があれば、離婚時にほとんどのケースで請求をされるのが年金分割です。
このページでは、年金分割がどのようなものか、また、年金分割の請求がされた場合の対応について解説を行います。
年金分割とは
年金分割とは、夫婦が離婚をする際に、婚姻期間中に払い込んだ年金保険料の記録を分割する制度です。
婚姻期間中は夫婦が互いに協力して生活をしてきたということを前提として、離婚時に、婚姻期間中に払い込んだ年金保険料を分け合い、双方が将来的に受給する年金額を調整することが公平であるとの考え方から、平成19年4月に年金分割制度の運用が開始されました。
年金分割について将来受給する年金そのものを元配偶者に渡す制度であるとの認識を持っている方が多いかもしれませんが、実際はそうではありません。
年金分割で分割されるのは婚姻期間中の年金保険料であり、分割後の双方の年金保険料をもとに年金事務所が実際に支払われる年金額を計算します。そのため、年金分割の効果を確認できるのは自身が年金を受給する年齢になってからということになります。
年金は基礎年金と厚生年金の2階建ての構造をしていますが、年金分割の対象となるのは厚生年金部分のみです。
会社勤めをしている方や公務員の方の場合には厚生年金部分がありますが(以前に公務員が加入していた共済年金も平成27年10月に厚生年金に一本化されました)、自営業等の方の場合には厚生年金部分はありませんので、後者の場合、年金分割制度は利用できません。
合意分割と3号分割
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があります。
合意分割
合意分割は、夫婦それぞれが厚生年金に加入している場合や平成20年4月より前から婚姻している場合に利用され、夫婦が年金分割の割合について合意して行います。
合意する年金分割の割合は最大で0.5(50%)とされており、夫婦の話し合いで合意ができない場合には、家庭裁判所の調停・審判で分割割合を決定することになります。
3号分割
3号分割は、平成20年4月以降の婚姻期間について、妻が3号被保険者となっている場合(扶養に入っている場合)に利用されます。
3号分割の場合、年金分割に夫婦の合意は不要とされ、離婚後に妻が単独で年金分割の手続を行うことでき、分割割合は0.5(50%)で固定されています。
なお、婚姻期間の全期間について妻が3号被保険者であるという場合でも平成20年4月より前から婚姻しているという場合には、合意分割を利用することになります。
年金分割の請求期限
年金分割は合意分割・3号分割のいずれについても離婚後2年以内に請求を行う必要があります。
夫婦の話し合いがまとまらずに家庭裁判所での手続が必要となる場合も離婚後2年以内に家庭裁判所へ調停等の申立てを行わなければなりません。
調停等に時間がかかりその結論が出たタイミングが離婚から2年を超えていた場合でも調停成立等の時点から1か月以内に年金事務所での手続を行えば年金分割を行うことができます。
年金分割の請求手続
具体的な年金分割の請求手続は以下のとおりです。
①年金分割のための情報提供通知書を取得する。
年金事務所に「年金分割のための情報提供書」という書類を提出し請求します。
情報提供通知書には、分割の対象となる期間、当該期間における夫婦それぞれの標準報酬月額、按分割合の範囲等が記載されています。
情報提供通知書の請求は一方の配偶者のみで行うことができ、離婚前にも取得ができますが、請求から手元に書類が届くまでに相当程度の時間(1月弱)がかかりますので、急ぎで手続を行う必要がある場合には前もって取得しておくことをお勧めいたします。
②分割割合について協議を行う。
合意分割の場合に限られますが、夫婦で分割割合をどの程度にするかの協議を行います。
夫婦での協議ができた場合には③に進みますが、協議がまとまらなかった場合には調停・審判等で分割割合を決定することになります・
③年金分割改定請求手続を行う。
年金事務所に「標準報酬改定請求書」を提出します。
通常は、夫婦2人で年金事務所に出向く必要がありますが、公正証書の中で年金分割の割合を定めた場合、調停等で分割割合が決定された場合には、一方の配偶者のみで行うことが可能です。
改定請求がされると、年金事務所は按分割合に基づき当事者それぞれの保険料納付記録の改定を行います。改定後の保険料納付記録は「標準報酬改定通知書」として双方に送付されます。
年金分割の請求をされた場合の対応
次に年金分割の請求をされた場合の対応についてです。
全婚姻期間を通じて妻の方が収入が高いという場合を除き、妻側に年金分割請求をするデメリットはありませんので、婚姻期間が極端に少ないという例外的な場合を除き、離婚時には年金分割の請求がされると考えておくべきです。
3号分割の場合、離婚後に妻が単独で手続をすることができ、分割割合も0.5(50%)で固定されているため、基本的に争う余地はありません。
合意分割の場合、建前上、分割割合の上限を0.5(50%)として協議を行うとされていますが、実務上は0.5(50%)の分割割合とすることが既定路線です。
これは統計上の数字にも表れており、令和2年度の司法統計によれば、離婚調停等において年金分割の分割割合が0.5(50%)とされたケースは7620件中7568件と約99.3%を占めており、離婚後の年金分割調停等において年金分割の分割割合が0.5(50%)とされたケースは2224件中2190件と約98.4%を占めています。
裁判例においても、「対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は,特別の事情がない限り,互いに同等と見るのを原則と考えるべきである。なぜなら,被用者年金の中心となる老齢基礎年金は,その性質および機能上,基本的に夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有しているものであり,離婚時年金分割制度との関係においては,婚姻期間中の保険料納付は互いの協力によりそれぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと評価すべきであって,いわゆる3号分割に関する厚生年金保険法78条の13に示された「被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について,当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識」は,特別の事情のない限り,いわゆる合意分割に関しても妥当するものと考えるべきであるからである」との考え方が基本とされており、「特段の事情」を認めるケースはごく稀です(婚姻期間の半分を別居しているケースや別居期間が35年に及んでいるケースについても裁判所は分割割合を0.5(50%)と判断しています)。
そこから、合意分割についても、極めて例外的なケース(妻が自身の稼ぎを超えて長期的に浪費を繰り返しており、その穴埋めを含め生活全般を夫の収入で賄っている等)を除き、基本的には争う余地がないという状況と言わざるを得ません。
年金分割制度が定められた趣旨からすれば、長期間の別居等についてはもう少し考慮があってもよいのではないかと考えますが、現状では、妻から年金分割を請求された場合に分割割合を深刻に争うということはあまり現実的ではないということになります。
とはいえ、他の離婚条件との兼ね合いで年金分割の分割割合が変動するという可能性もありますので、年金分割の請求を妻からされ悩んでいるという方は、まずは、男性側の離婚事件に強いグリーンリーフ法律事務所・離婚専門チームの弁護士までご相談ください。