幼年の子の親権を、父親に認めた例

紛争の内容 
自営業をしている男性Aさんは、5年前にBと結婚し、長女と長男二人の子どもを授かりました。Aさんは仕事で忙しいながらも、家事も育児も積極的に行い、3歳になる長女、1歳になる長男を保育園に送迎するなどしていました。ところが、長男を生んだ後から育児などのストレスにより精神的に不安定になったBは、精神科に通院するようになり、長女や長男にも暴言を吐くようになり、物に当たってしまうなどの行動をとるようになりました。Aさんは、子どものために良くないと思い、仕事をしばらく休業として、Bの代わりに全ての家事・育児をするようにしていました。半年後、Bの体調は大分良くなり、家の中にいるだけでは良くないということで外にパートに出るようにもなりました。しかし、Bは自分のストレスの原因はAさんにあるから、離婚をしたいなどと主張して、子ども二人を連れて実家に帰ろうとしました。ところが、長女も長男もAさんと住んでいる今の家を出るのを嫌がり、Bは一人で子どもたちを置いて実家に住むことになりました。Bは、Aさんに対して離婚調停を申し立て、子どもの親権は母にすべきと争いました。そこで、Aさんはやむなく弁護士に依頼することにしたのです。

交渉・調停・訴訟などの経過
本件で一番問題となったのは、父母ともに親権を主張した点でした。家事や育児のやりかたは各家庭によって異なりますが、母の方が子どもと接する時間が長いというケースが多い日本においては、女性が親権をとることが多いように見受けられます。しかし、本件ではAさんも子ども達が生まれてから積極的に育児に関わってきており、子ども達自身もAさんを慕っており、母であるBが出ていくときにも明確にAさんと一緒に住むことを求めていたこと、そしてBには精神的に不安定な部分もあったことから、家庭裁判所の調査官の調査によっても「Aさんの下で監護するのが望ましい」という意見が出されていました。これを踏まえ、Bも「離婚後も子どもらと面会交流が柔軟にできるのであれば」という譲歩を示しました。

本事例の結末 
結果として、AさんとBは、「子二人の親権者はいずれも父であるAさん、面会交流は月に2回行う」という条件で離婚をする合意をしました。

本事例に学ぶこと 
幼年の子がいる場合、父側の親権を認めてもらえるケースは少ないのが実態だと思いますが、離婚や別居に至るまでの経緯、子との親和性、子の監護に対する態度や能力などを総合して調査官の意見は出されますし、裁判所もその意見を重視するのが通常です。「親権に関しては母が有利」という固定概念は必ずしも妥当しないと思いますので、親権についてお悩みの男性にも、積極的に弁護士への相談をいただくべきと思いました。

弁護士 相川一ゑ