紛争の内容
妻が約8600万円の財産を保有し、夫が約6200万円の財産を保有しているという事案で、別居から約2年半が経過している時点で夫側から相談をされました。
妻側が離婚調停を申し立てる状況でしたので、夫から依頼を受けて調停の代理人に就任しました。妻側が、自身の財産のうち8000万円を超える部分が、親族からの贈与や相続で手に入れたために、特有財産として財産分与の対象にならないと主張しました。
双方の主張の隔たりが大きいために、事件は訴訟へ移行しました。
交渉・調停・訴訟等の経過
訴訟において、当方は、妻の預金から出金された多額の金員が行方不明となっており、妻が受けた贈与金と相続金が、妻の預金に残存しているのかが分からないため、贈与金と相続金を特有財産として差し引くべきではないことを主張しました。
また、夫が子供のための費用のほとんどを払っていたために、妻は自身の給与のほとんどを貯蓄することができたため、妻の保有財産のうちの多くが、贈与金や相続金といった特有財産ではなく、夫婦共有財産であることを主張しました。
さらに、妻側が証券会社に送金をしているにもかかわらず、妻側が証券会社で保有する財産の開示をしていないことを指摘しました。
その結果、妻の預金から出金された金員が行方不明となっており、贈与金と相続金が今も妻の預金に残存しているのかが分からないという当方の主張を裁判所はそのままの形では認めませんでしたが、親族からの贈与は、妻と夫の子供のためになされたにもかかわらず、実際には子供のための費用はほとんどを夫が払っていたという認定をして、それによって妻は贈与金を子供のために支払うことを免れているという理由で、裁判所は妻が贈与金の一部を特有財産として差し引くことを認めませんでした。
また、当方の指摘の結果、妻側が1000万円程度の財産を証券会社において保有していたことが明らかとなり、妻側の保有資産は約9600万円であることが確認されました。
本事例の結末
結果として、妻の保有する財産から一部の特有財産を差し引いたとしても、妻から夫に対する財産分与の請求は認められないという判決を裁判所が下しました。
本事例に学ぶこと
妻が子供のためにという理由で親族から受けた贈与金が、子供の財産ではなく、妻の財産として認定されることがあり、夫が子供のための費用のほとんどを払っている場合には、この贈与金を妻の特有財産として差し引くことができないという判断がなされることがあることを学びました。
弁護士 村本 拓哉