長期間の別居を経た熟年夫婦の離婚について

紛争の内容
50代後半公務員のAさんは、主婦のBとの間に二人の娘がいましたが、Bと家庭内別居が続き、娘も成人したことをきっかけに12年前に自分が家を出る形で別居を開始しました。
Bに十分な婚姻費用を支払い続けてきたものの、定年を目前に控え、Bとの夫婦関係を解消したいと考えるようになりました。AさんもBも離婚という結論自体には争いがなかったものの、相手方の離婚理由を主張し、財産分与など離婚の条件について合意が形成できなかったため、Aさんから弁護士に依頼し、離婚調停を申し立てることになりました。
また、Bにも弁護士が就きました。

交渉・調停・訴訟などの経過
離婚調停の中では、BもAさんが別居前に暴力や暴言があったことなどを主張し、離婚慰謝料の支払いとAさんの退職金・預金なども含めた資産について財産分与をするよう求めました。
しかし、AさんはBの主張する暴言や暴力については事実と異なり、むしろBからAさん自身やAさんの両親を詰るような仕打ちを受け、やむなく別居したものだと慰謝料支払義務を否定したほか、Bに高級車や通常の婚姻費用とすれば高額の仕送りをしていたことを前提に、財産分与の額について争うこととなりました。
結果として、調停では折り合いがつかず、調停は不成立、Aさんから離婚訴訟を提起することとなりました。
訴訟の中では、具体的にAさんとBの財産を開示しつつ、進められましたが、別居時点のBの財産については、当時の銀行取引履歴が「保存期間経過のため開示できない」などとされて調査嘱託を経ても明らかにできなかったため、分かる範囲のみでの分与となりました。

本事例の結末
結果として、裁判官はAさんの主張、Bの主張それぞれについて、裏付けがある限りで認めることとし、それを前提でAさんの退職金予定額 (12年前の別居時時点のもの)を夫婦共有財産として、400万円の金銭支払いをすることにより、和解離婚をすることとなりました。
 
本事例に学ぶこと
財産分与の対象については、別居日を基準とするのが原則であるため、相当に別居期間が長い場合には、思いのほかこの対象財産が少なくなる、ということもありえます。
ただし、同時に時間の経過により、相手方配偶者の別居時の財産が不明になってしまい、後で調査も適わないということも起こりえるので、そうなる前に証拠の確保をしておくということが必要ですし、また別居時にある程度の準備をしておくことが重要と感じました。

弁護士 相川一ゑ