昨今マッチングアプリの利用者が増えている中、「夫(妻)が同アプリを使用して不倫していることが発覚した場合、慰謝料請求することができるか?」お悩みの方がいると思われます。
本ページは、不倫相手に対し慰謝料請求する場合の注意点などについて、専門家が解説する内容となっております。
そもそも、慰謝料請求とは?
慰謝料の法的性質は、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)であり、慰謝料請求が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
1 権利侵害
2 故意または過失
3 違法性
4 損害の発生
5 権利侵害と損害発生との間の因果関係
以下では、慰謝料請求をする際に争いになりやすい要件(1・2・5)について詳しくご説明いたします。
1 権利侵害
不貞行為とは、「配偶者である者が、自由意思に基づいて、他方配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義されています。
この「性的関係」とは、肉体関係のことを指します。
また、肉体関係に至らなくても、性的に密接な関係を持つことも、「不貞行為」にあたるとされる場合があります。
他方で、2人きりで食事をする、手をつなぐ、マッチングアプリ内でやり取りをするといった行為だけでは、基本的に「不貞行為」にはあたりません。
そして、不貞行為は「婚姻共同生活の平和の維持」という人格的利益を侵害する行為に当たり、違法性(上記3)を有するといえます。
2 故意または過失
夫婦間における慰謝料請求については、一方配偶者が、結婚しているにもかかわらず不貞行為に及んでいることから、故意の存否が問題になることはほとんどありません。
他方で、一方配偶者が、他方配偶者と不貞行為をした相手(「不貞相手」といいます。)に対して慰謝料請求する場面では、故意または過失の存否が争われる可能性があります。
例えば、マッチングアプリで、プロフィール欄に「未婚」との記載があり、その記載を信じ知り合った結果、交際関係・性的関係に至った場合、不貞相手からすれば、交際相手が既婚者であると気づかなかった(気づくことができなかった)という可能性があり、「故意・過失がなかった」と反論する場合があります。
5 権利侵害と損害との因果関係
慰謝料請求が認められるためには、不貞行為があったことを理由に、婚姻共同生活が破綻した(結果)といった因果関係があることが必要です。
したがって、請求された側の反論として、「不貞行為に及んだ以前に、夫婦として婚姻関係は既に破綻していた」などと主張してくる場合もあります。
そのような反論を崩すためには、不貞行為があった以前の夫婦関係は良好であったことを主張する必要があります。
例えば、下記のような事情を主張する場合が多いと考えられます。
・家族旅行やイベント(子供の運動会など)に行っていた
・冠婚葬祭など親族との交流があった、定期的に実家へ帰省していた
・夫婦間での性交渉があった
・別居の話が出ていない
・別居していたものの、別居期間が長くない
慰謝料の額はどうやって決まる?
損害額(慰謝料)は、主に次の事情を考慮して算定されます。
・婚姻期間の長短と婚姻生活の状況
婚姻期間が長ければ長いほど慰謝料の額が多くなる傾向にあります。
・離婚の成否
・不貞が婚姻関係に与えた影響の大小
不貞行為の発覚により婚姻関係が破綻した場合は、慰謝料額が多くなる傾向にあります。
・不貞行為の悪質さ(妊娠・出産の有無、同居の有無等)
・子の存在と、子に対する影響
子が精神的苦痛を受けたことで親としての精神的苦痛が増大した場合には、慰謝料額が多くなる傾向にあります。
・夫婦の年齢、職業及び資力
不貞慰謝料の相場については、各々の事情によりますが、裁判実務上、50万円~300万円程度とされております。
以下では、実際の裁判例を挙げながらご説明いたします。
1 慰謝料150万円(東京地裁平成28年3月22日)
・婚姻期間 約4年 婚姻関係円満
・不貞期間 約2か月(週1~2回程度の性的関係)
・子あり(2歳)
本事案は、被告が、不貞行為が発覚した後も不倫相手との関係を継続するとの意思表明をした事情(増額事由)等を考慮し、慰謝料150万円と判断されました。
2 慰謝料200万円(東京地裁 平成30年1月19日)
・婚姻期間 約28年
・不貞期間 約3年8か月
・不貞発覚により別居
本事案は、不貞期間が3年8か月と長い事情(増額事由)等を考慮し、慰謝料200万円と判断されました。
3 慰謝料110万円(東京地裁 平成28年4月6日)
・婚姻期間 約5年半
・不貞行為 1回
・子供あり(3人)
・不貞により婚姻関係の破綻なし
本事案は、不貞に及んだ配偶者が別居に踏み込んだ理由が、就労や家計の管理等をめぐり他方配偶者に不満を持っていたこと等によるとみられるのであり、不貞関係が夫婦間の関係を修復著しく困難にした事情とはいえるものの、決定的原因とはいえないこと(減額事由)等を考慮し、慰謝料110万円と判断されました。
4 慰謝料90万円(東京地裁 平成30年1月29日)
・婚姻期間 約10年
・不貞期間 約1年
・子供あり
・不貞により婚姻関係の破綻なし
本事案は、宿泊を伴う不貞行為は1度だけであったこと(減額事由)等を考慮し、慰謝料90万円と判断されました。
あくまで、慰謝料の額は事案各々の事情により大きく変動いたしますので、上記裁判例はあくまでご参考程度にお読みください。
慰謝料請求するためにはどのような証拠が必要か?
1 スマホでのやり取り
マッチングアプリでの不倫の場合、夫(妻)がスマホでやり取りをすることが一般的であることから、スマホでのやりとりの中に親密な男女の関係にあることを示すもの(例えば、「昨日のお泊りは楽しかったね」、「愛している」)がある場合、不貞行為立証のための有用な証拠になると考えられます。
2 写真
また、スマホ内に両者が親密な男女関係にあることを示す写真・動画も不貞関係立証のために有用な証拠になると考えられます。
写真の日付が連続している場合には、宿泊していることを裏付ける証拠として使える可能性もありますので、撮影日に着目してください。
もっとも、配偶者のスマホを無断で見ることは、個人情報の観点から夫婦間であっても原則として許されることではなく、トラブルの原因にもなりますので、データの取り扱いにはご注意ください。
3 不貞行為を認める旨の書面や録音データ
このような証拠は不倫関係を立証するうえで有用な証拠になると考えられております。
もっとも、後々相手方(他方配偶者・不貞相手)が「脅されて書かされた・言わされた」などと主張し、その信用性等を争ってくる可能性もあります。
このような事態を防ぐためにも、不貞行為について時期や場所、経緯などを具体的に特定すること、文書作成時のやりとり・会話内容を記録・録音しておくとよろしいかと思われます。
4 領収書やクレジットカードの利用明細
領収書やクレジットカードの利用明細は、配偶者と不貞相手が行った場所やその頻度などを調べるきっかけになります。
宿泊日や宿泊先ホテルなどを特定することができれば、スマホのやり取りなど他の証拠と結びつけることで、不貞行為を裏付ける証拠になる可能性があります。
5 興信所の調査報告書
例えば、配偶者と不倫相手がホテルで長時間滞在していたなどの事実が写真や動画などの客観的証拠で記録されていれば、不貞行為の重要な証拠になります。
もっとも、興信所へ調査依頼するとなると相応の費用も掛かりますし、相手方(他方配偶者・不貞相手)に対しその費用全額を請求することは困難な事案も多いので、調査依頼をするかどうかは慎重に検討されるべきかと思われます。
また、配偶者の行動を監視する目的で、無断でドライブレコーダーやGPSを車に設置し、不貞の証拠を獲得し、当該証拠を裁判において提出することは、裁判実務上の観点及び個人情報の観点から、証拠としての価値が比較的低くなる可能性が高いという考えもありますので、上記のような行為は避けるべきかと思います。
まとめ
「夫(妻)がマッチングアプリを利用して不倫をしているのではないか?」と疑いを持った場合、慰謝料請求をするためには証拠収集が特に重要です。
まずは、先ほどご説明した証拠がないか、強引な方法を避けつつ獲得していただければと思います。
必要な証拠が揃ったと判断した場合には、慰謝料請求することができるかどうかについて弁護士にご相談してみるとよろしいかと思われます。
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